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『お前に雨が降り続くなら、俺は傘になろう』

戦いの後、あいつは煙草をふかしながら器用に片眉を上げて見せた。

『傘か?』
『ああ。雨の日はお得意の錬金術が使えねえだろ、焔の錬金術師様』
『…図体も態度もデカい傘だな』

断りもなく人の心に土足で上がりこみ、いつしか棲み付いた。

『デカい傘の方が雨粒は凌げる。最も、俺と寄り添いたいって言うなら、とびきり小さい傘にするが』

がははと笑うその優しさ。
瞳を閉じるたびに、残像が揺れた。

背中を預けた仲間達。
大統領への道程、例え道は別たれても、向かう目標は同じだ。

ホークアイ
ハボック
ブレダ
フュリー

そして―――ヒューズ。

残像が、笑う。
私の中に焼き付いた彼は、老いることもなく、ただ笑う。
一番、愛した笑顔で。

『お前を―――命を賭けて、護るから』


哀しみの雨


雨上がりの道はきらきらと輝きを放っている。眩しい陽光に目を細め、私は一息吐いた。
休日にすることもなく、ただ散歩をするというのもどうなのか。
平和である証拠だと、ヤツなら言っただろう。

続く戦乱で、人間としての正気など保っていられるはずもなかった。
何十何百…数えていたはずの死体は、あまりの途方のなさに途中で諦めた。

人の皮膚が、肉が、全てが焼けて消し炭になり、どれだけこの手を血に染めても終わることのない戦い。
半狂乱する者、逃げ出そうとする者。
数々の死に逝く味方をも見てきた。

血塗られたこの手―――焼き加減すらも覚えたこの能力は、ただただ人を救うためにあるのだと思っていたのに。

『お前さんの能力ってヤツを生かせ。大丈夫だ』

根拠もなく笑う彼に、私はどれだけ慰められたかわからない。

『もう、人間になんて戻れないさ』

繰り返される大量殺人。
自暴自棄になる俺に、喝を入れたのも彼だ。

『諦めるのか!!』

肩を揺さぶられ、眼鏡の奥のあの瞳で見つめられる。
全てをわかっている、あの瞳。

『ロイ…お前は大丈夫だ』

肩を抱く、あの逞しい腕。
いつも私を護ってくれたあの……

「……っ」

視界が揺れ、奥歯を噛み締める。拳を握り、襲い来る震えに耐える。

背中に寂しさを感じる。
いつも、そこにはお前の温もりがあった。

暑い夏も、寒い冬も。過ごしやすい季節のときでさえ、お前は絶えず私の傍にいた。
大統領へと導く、その手助けをすると。
共に過ごしてきた日々で、何度となく誓った日々を忘れたか?

あの戦いを繰り返さない平和な世を。
そして……

「ヒュ―…」

呟きは風に紛れた。そして気が付くと、私は彼の元へと来ていた。

彼の眠る墓石。
刻まれるその名を見ても、信じ難い現実。
葬儀も終え、ヤツのいない生活にも慣れ、思い出話も出来るように―――

「なるわけ、ないな…」

ポツリ。
肩先に当たる銀糸は、どんどんと雨足を強めていく。

「お前は、傘になると言った」

あのときの戦いのような、哀しみの雨が降り続くことが二度とないように。
傘となり盾となり。

『ロイ…お前を護る』

「約束は、どうした…」

小さい傘でよかった。
大きな傘で、その命を失うくらいなら。
ただ私の傍で、私を支え続けてくれる…とびきり、小さな傘で。

「ヒューズ」

墓石を濡らす雨は、止まるところを知らなかった。
そして、頬を伝う雨粒は―――彼の墓石に溶けた。

「…止まないな」

この世界に降り続く、哀しい雨は。

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