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言葉と距離 |
| その一言が、余計だったのだ。 (どうすっかな・・・・・・) 午後を少し過ぎた頃、坂崎は浜松町の駅にいた。 右手に持つ携帯電話を開いては閉じ、また開きと、それをかれこれ20分近く繰り返している。 口から出るのは挨拶でもなく誰かの名前でもなく、重いため息ばかりだった。 「・・・・・・」 坂崎は自分の携帯を睨み付ける。 しようとしていることはいたって簡単なことだ。 アドレスから目当てのナンバーを呼び出しボタンを押す、それだけだ。 しかし、普段であればなんともないその作業が昨日から、正確には昨夜からひどく難しいものになっていた。 あと一押しがどうにも、出来ない。 出来ないからわざわざ佐世保―羽田の距離を飛んできたわけなのだが、やはり目的地が近づくにつれ身も心も足踏みしてしまった。 早くしなければ事態は悪化する一方であることも分かっている。 「どっちにしろアポは取らなきゃマズイだろ・・・・・・」 勢い任せに飛行機に乗り込んできてしまったが、先方にアポを取っていなかった。 相手の勤務形態を考えればまず連絡を入れておくべきところなのだが、アポを取っていこうという雰囲気も余裕も坂崎にはなかった。 再びディスプレイに呼び出した名前を見つめながら昨夜の記憶をなぞる。 真田甚。 昨夜、潜水班のメンバーと飲んでいるところへ携帯が鳴った。 ディスプレイには羽田に勤める友人の名前が表示されていた。 少し疲れた声をしている真田を心配してどうしたと問えば、なんとなく声を聞きたくなってなと言われた。 そう告げられて悪い気はしない。少し気恥ずかしいが、思ったことを臆面もなく口にするのはこの友人の個性だ。 今更なことだ。 どうせ携帯の向こう、遠い地にいる友人に、酒のせいだけではない頬の赤みを見られることはない。 「なんだよそりゃ、俺の声はそんなにいいか?美声?」 「美声ではないが、聞きたくなる」 「褒められた気がしねえな・・・・・・」 疲れているときに、声を聞きたいなんて言ってきたのだ。 こんな声でよければいくらでも聞かせてやろうと、坂崎は飲み会を抜け出して軽口を交えながら近況を報告しあった。 そう、軽口を交えながら、今ではどんな成り行きで出た話題だったかも思い出せない。 疲れていた真田と、少し酒の入った坂崎と。 その一言が、余計だったのだ。 お前は、結婚しないのか? ―――と。 直後落ちた一瞬の沈黙に、坂崎は自分の失言を悟った。 「・・・・・・それを、お前が言うのか・・・・・・?」 小さな言葉を残し、通話は切れた。 いくら酒が入っていたとはいえ、言ってはならない言葉だった。 自分を好きだと告げてきた相手に、投げてはならないものだった。 まして真田は現在進行形で坂崎に想いを告げ続けている。 そんな相手に間違っても自分から聞いてはならない内容であったのに、軽く、投げつけてしまった。 (甚のあんな声、聞いたことねえな・・・・・・) |
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